そけいヘルニア(脱腸)とは?痛みや治療法を解説
脱腸はそけい(鼠径)ヘルニアとも呼ばれ、自然には治らない病態のため状況に応じて適切な処置が必要です。放置しておくと重篤な症状を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
この記事では、そけいヘルニア(脱腸)の基本情報、治療や手術の内容について解説します。
そけいヘルニア(脱腸)とは
そけいヘルニア(脱腸)とは、そけい部(脚の付け根のあたり)から腸などの内臓が出てきて膨らんだり、痛みを伴ったりする状態をいいます。
男性の方がなりやすい傾向があり、50〜60歳以上に多く見られます。※
女性は、70〜80代で発症することが多いです。
※(厚生労働省 第9回NDBオープンデータ:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177221_00014.html
サイト内医科診療行為(算定回数)A基本診療料 『短期滞在手術等基本料_性年齢別患者数』より)

ヘルニア状態の図
そけいヘルニア(脱腸)の原因
そけいヘルニア(脱腸)の原因は大きく分けて2つ、先天性と後天性があります。
- 先天性: 生まれつき筋膜が薄く、腸が飛び出しやすい。特に乳児期に発症することが多い。
- 後天性: 加齢により筋肉・筋膜が弱まることが原因の場合と、生活習慣や仕事の内容などによる慢性的に腹圧がかかりやすいことが原因で引き起こされるケースがあります。後者の場合は若い世代であっても発症する場合があります。
以下に当てはまる人は、脱腸のリスクが高いとされています。
- 重たい物を持ち上げることが多い
- 立ち仕事が多い
- 力の入りやすい過激な運動をしている
- 便秘症や前立腺肥大
- 慢性的に咳をする
- 腹部脂肪が増加している(メタボリックシンドローム)
- 多産もしくは出産後
- 喫煙する
後天性の脱腸は日々の生活習慣を見直すことで、発症や再発の可能性を下げられるため、上記のような内容を意識的に避けることが重要です。
そけいヘルニア(脱腸)の症状や痛み
そけいヘルニア(脱腸)の主な症状は、そけい部※に膨らみができることです。
※そけい部とは、脚の付け根にある溝の内側の三角状の部分を指します。
膨らみは、立っている時やお腹に力を入れた時に現れ、多くの場合は指で押すと引っ込みます。
また、以下のような症状も見られます。
- 突っ張り感や不快感
- 痛みや違和感
- 便秘や排尿障害(膀胱が飛び出した場合)
また、次のような場合には緊急手術が必要になるため注意してください。
- 膨らみを押さえても引っ込まない(嵌頓※)
- 腫れた箇所が急に硬くなった
※嵌頓(かんとん):腸が飛び出た穴にはまって元に戻らなくなってしまった状態
嵌頓(かんとん)状態の危険性
そけいヘルニア(脱腸)を放置しておくと、腸が周囲の筋肉で締め付けられて戻らなくなる「嵌頓状態」になる場合があります。
嵌頓状態の腸は細く狭くなって血流が途絶え、強い痛みや便秘、嘔吐などの腸閉塞の症状が現れます。
最悪の場合、腸が腐り壊死してしまうと命に関わるため、早急な手術が必要です。
そけいヘルニア(脱腸) の種類
脱腸にはいくつかの種類があり、患者さんの症状によって取るべき対処法が異なります。
そけいヘルニア(脱腸)は大きく3つに分類され、それぞれの特徴は以下の通りです。
種類 | 特徴 |
外そけいヘルニア | ● そけい管を通じて腸が飛び出す
● 年齢・性別を問わずなりやすい ● 中高齢男性に特に多い、一般的なタイプ |
内そけいヘルニア | ● そけい部の内側で発生する
● 中高齢男性に多い |
大腿ヘルニア | ● 太腿にある大腿輪から腸が飛び出す
● 女性、特に多産の高齢女性に多く見られる ● 発症するとそけい部の少し下あたりにしこりが生じる ● 重症化しやすく、発症すると腸管が壊死しやすいため早急な治療が求められる |
中高齢の男性は外そけいヘルニアと内そけいヘルニア、女性は大腿ヘルニアが起こりやすい傾向にあります。脱腸は、種類にかかわらず、放置すると手術が困難になったり腸管が壊死したりと、大きなリスクを伴います。
脱腸の自覚症状がある場合には、できるだけ早く適切な医療機関を受診し、治療を受けましょう。
そけいヘルニア(脱腸)の受診は何科?
そけいヘルニア(脱腸)の症状を感じたら、消化器外科、もしくは外科を受診してください。
そけい部に腫れや違和感があると泌尿器科や婦人科への受診を考えるかもしれませんが、
脱腸は、手術による治療が必要になるため、外科的な処置が可能な外科や消化器外科が受診先となります。
そけいヘルニア(脱腸)の治療法
そけいヘルニア(脱腸)の基本的な治療法は手術です。
方法は大きく分けて2つあり、一般的にはどちらも人工の膜(メッシュ)を挿入してヘルニアの部位を補強します。
前方アプローチ | 腹腔内アプローチ | |
手術法 | ● そけい部切開法 | ● 腹腔鏡手術
● 腹腔鏡下ヘルニア手術 |
内容 | そけい部を5〜6cmほど切開して修復 | 腹腔内に腹腔鏡を挿入して修復 |
メリット | ● 局所麻酔で行えることがある
● 出血リスクの高い患者でも比較的安全 |
● 傷跡が小さい(5~10mm程度の穴が3箇所)
● 術後の痛みが少ない ● 早期の退院、社会復帰が可能 |
デメリット | ● 傷跡がやや大きい
● 術後の痛みがやや強い |
● 全身麻酔を要する
● 技術的に難しく、医師の経験が求められる |




そけいヘルニア(脱腸)の手術後
Q.いつ退院できる?
A.そけいヘルニア(脱腸)の手術での入院期間は3~5日が一般的で、歩行、食事は当日から術翌日から可能になる場合が多いです。
病院によっては日帰りや一泊入院なども可能なケースもありますが、症状や患者様の健康状態などによって一定の入院期間が必要な場合があります。また、急な痛みが生じた場合の対応が遅れる可能性もありますので、入院が必要かどうかの判断は担当医に従った方が良いでしょう。
Q.手術の後も痛みは残る?
A.痛みの感じ方は人それぞれですが、翌日~数日間は痛みを感じる場合があるため、術後3〜4日程度はできるだけ安静にしましょう。
Q.いつ日常生活に戻れる?
A.激しい負荷をかけず、後述の「術後の経過観察」に問題がなければ、1〜2週間程度で日常生活や事務仕事に復帰できます。重たいものを持ったり、ジョギングなどの運動をしたりするのは術後3〜4週間くらいは控えた方が賢明です。術後、そけい部が再度腫れることもありますが、多くの場合で半年程度かけてゆるやかに戻っていきます。気になる場合は担当医に相談しましょう。
術後の経過観察
そけいヘルニア(脱腸)術後の経過観察では、退院後2〜3週間で外来を受診するのが一般的です。
キズや身体の状態、痛みなどを確認し、問題がなければ一旦終診となるケースが多いです。
検診予定の前であっても、もし痛みや腫れが見られた場合は早めに受診してください。
脱腸帯の使用は医師と相談して決める
そけいヘルニア(脱腸)の手術が難しい高齢者への対応や手術までの一時的な対策として、脱腸帯または脱腸ベルトを用いるケースがあります。脱腸帯(脱腸ベルト)は、ヘルニアをバンドで抑え込み腹圧の上昇による腸の脱出を防ぐ役割を果たします。
ただし、脱腸帯は根本的な問題を解決するものではありません。脱腸帯により一時的に症状を和らげられますが、過度に頼ると以下のような問題が生じます。
- 必要な受診・処置のタイミングが遅れる
- ヘルニアと腸が癒着して手術が困難になる場合がある
- 不適切な使用により、痛み・皮膚の疾病を引き起こすリスクがある
そけいヘルニア(脱腸)の根本的な治療は手術のみであり、脱腸帯や脱腸ベルトはあくまでも一時的なサポートです。脱腸ベルトは市販されているものもありますが、使用の可否を含めて、自己判断するのではなく、まずは医師の診察を受けることをおすすめします。
そけいヘルニア(脱腸)を悪化させないために
そけいヘルニア(脱腸)の症状がある場合、日常生活では以下に留意し、悪化させないようにしましょう。
- 重いものを持たない・運ばない
- トイレでいきみすぎない
- 肥満体型にならない
- 立ちっぱなしを控える
- 大きなくしゃみ・咳に注意する
日頃から少しずつ気を付け、お腹に力を入れないことで、そけいヘルニア(脱腸)の悪化を予防できます。
まとめ
今回はそけいヘルニア(脱腸)の症状や治療法をお伝えしました。
そけいヘルニア(脱腸)は発症すると自然治癒せず、根本的な治療には手術が必要です。
痛みがないからといって放置すると、重篤な症状を引き起こす可能性があります。
ぽっこりとした膨らみがある、押すと戻る膨らみがある、下腹部に痛みを感じるなど気になる症状があれば、早めの受診をおすすめします。